高知県でしらすといえば、「マイワシ」「ウルメイワシ」「カタクチイワシ」の稚仔魚(ちしぎょ)の総称で、一年中楽しむことができる。特に美味しいのは秋から春にかけての旬の時期だ。
しらすは美味しいだけでなく、栄養も豊富でカルシウム、ビタミンD、たんぱく質を多く含んでいるところも魅力の一つである。
今回は、しらすの美味しさと鮮度に魂を込めている「土佐角弘海産」の北垣 博則(きたがき ひろのり)さんに話を聞いた。
2025年で創業40年を迎えた土佐角弘海産は、現在3名の従業員と1名のパートスタッフで運営を行っているという。一人ひとりが全体の流れを把握して効率的な働き方をすることで、少人数ながらも鮮度を保った高品質な商品を提供し続けている。
現代表の北垣さんは神戸出身で、妻の里佐(りさ)さんの出身地である高知県に移住した。移住のきっかけとなったのは、先代の社長(里佐さんの父)から「しらす事業を一緒にやってくれないか」と声がかかったことだ。
当時は水産・加工業とは全く違う職種で働いており、先代のやり方を学びながらのスタートとなった。馴染みのない土佐弁や、漁の現場で飛び交う専門用語を、最初は理解できず苦戦したそうだ。
北垣さんご夫婦の似顔絵
また、北垣さんがしらす事業に携わり始めた2000年代半ば頃、インターネットの普及により、しらす業界に変化が起き始めていた。インターネットを通じて各地のしらすの価格情報が出回ることで、価格の比較がされやすくなり、しらすの価格競争が激化していった。危機感を抱いた北垣さんは、卸売市場を通じた従来の取引方法から、量販店や飲食店との直接取引にシフトチェンジを図った。この転換期が最も苦労した時期だという。
高知のしらす漁は、主に “パッチ網漁法” で行われている。2隻の漁船で大きな網(パッチ網/バッチ網)を曳きながら、しらすを漁獲する漁法だ。高知県は黒潮の流れによってしらすの動きが変わるため、その動きを見極めながら2隻の船で獲る方法が一番効率が良いと、北垣さんは説明してくれた。
水揚げされた網の中には、貝類やしらす以外の魚などが混入していることがあり、取り除く作業が必要になる。これは目視で選別するため、多くの労力を割かなければならない。しかし、お客さまへ安全なしらすを提供するためには欠かせない作業となっている。
しらすの美味しさの秘訣はやはり鮮度だ。加工場は、しらすの鮮度を保つことができるという理由で、現在の場所に決定した。「吉川漁港の目の前で、水揚げされた魚をすぐ加工する。これが一番おいしいしらすの作り方」だと北垣さんは語る。
また、土佐角弘海産では鮮度の高いしらすを提供するため、漁師と専属契約を結んで仕入れを行っている。水揚げ時の網に混入する他の魚種や貝類などを、海の上で可能な範囲で除去するなど、丁寧な作業をしてくれる方と契約している。
土佐角弘海産の看板
さらに美味しさを引き立てるため、ひと手間加えたのが塩だ。旨味成分を活かした特別な塩を使い、しらすに絶妙な味わいを加えている。この理想の塩を見つけ出すまでは時間がかかったそうだ。製塩業者と試行錯誤を繰り返しながら現在の塩にたどり着いた。
また、しらす本来のおいしさをお客さまに届けるため、一年を通じて一定の塩分濃度で加工することにもこだわっている。「冬場は塩分濃度を下げて、夏場の傷みやすい時期は塩分濃度を上げて、という方法もありますが、それではしらす本来の美味しさが保たれない」と北垣さんは教えてくれた。
現在でも天日干しにこだわっているのも土佐角弘海産の特徴だ。今では乾燥まで行うしらすの加工機もあるが、 太陽の光や風に当てることで、より旨味が引き立つのだという。お客さまに喜んでもらえるしらすを作るため、水揚げがある日は毎日天日干しを行っている。
また土佐角弘海産では、安心安全なしらすをお届けするため、品質管理の専門家と連携し、従業員の衛生指導に力を入れており、衛生管理を徹底している。
さらに水揚げがあった日は、忙しくても加工場での作業を公開している。実際に生しらすを加工していく様子をお客さまに見てもらうためだ。
「水揚げされたばかりのしらすは、こんな新鮮なんやと、目の前で加工される流れを見て安心して、より美味しさを感じてもらいたい。しっかり見える状態で実感して食べてもらうのが一番良いのかなと思ってます。」
高知県では、生のしらすを ”どろめ” と呼び、ぽん酢やぬた(葉にんにくをすり潰して味噌や酢などと混ぜたもの)などと合わせて食べられている。
加熱などの加工がされず、洗浄後に新鮮な状態で提供されるため、その風味や食感は格別だ。しらすは鮮度落ちが早いため、しらすの水揚げが無い地域ではなかなか味わうことができない。
またしらすは、その干し方で呼び名が変わる。
水揚げされたしらすを塩水でさっと茹でた、ふわふわな食感が楽しめる”釜あげ”。
釜揚げしたしらすを天日で軽く干し、ぷりぷりとした食感が楽しめる”若干し”。
天日でゆっくり干して、旨味と塩分を凝縮させた”しらす干し(ちりめん)”
しらす干しをさらに乾燥させて水分を飛ばした、濃厚な風味と歯ごたえが楽しめる”かちり上干し”。
事業者によって多少呼び方に違いはあるが、土佐角弘海産ではこのように呼んでいる。ぜひ食べ比べて様々な食感を楽しんでほしい。
天日干しの様子
土佐角弘海産の製造直売所では、毎週土曜日限定で名物“のっけ放題釜あげしらす丼”を販売している。ご飯を自分でよそい、釜あげ・若干し・かちり上干の3種類のしらすを、自分好みの配分でのせることができる。
中にはあまり市場に出回らない、甘えびなどを食べて旨味成分を多く含んでいる赤みがかったしらすなども入っている。
水揚げから2時間以内の新鮮などろめや、しらすで出汁をとった高知の郷土料理”どろめ汁”も提供されており、しらすを様々な食べ方で楽しむことができるのも嬉しいサービスだ。
「水揚げされて直ぐ加工したしらすを提供しているため、その新鮮さと美味しさを最大限に味わうことができる」と北垣さんは教えてくれた。
北垣さんは、しらすを沢山食べてもらいたいという思いから、2018年頃にしらす丼を始めた。新鮮なしらすを使った美味しさで徐々に評判が広がり、2年目には県外観光客もたくさん訪れるようになった。
その後、コロナ禍で県外からの客足が一時的に減少したものの、地元の人々からの支持は根強かった。今では全国からファンが訪れており、地元でも愛される味として信頼を築いている。
「安全で美味しいものを提供するのは当然として、我々の対応やお店の雰囲気で、全然味が変わってきます。きちんとした対応をして、楽しい中で食べてもらえたら、美味しさも増すし信頼も得られるだろうということで、材料にもこだわって余計な調味料で味をごまかさない、嘘をつかないきちんとした商品作りをすることを大切にしています。その大切さを自分が一番感じているからこそ、少しでもおいしく召し上がっていただけるような心遣いが、一番重要だと思っています。」
店内はアットホームな雰囲気で、初めて訪れた人でも安心して楽しめる空間だ。
また、土佐角弘海産には、SNSを通じてしらすの美味しさを広めてくれるたくさんのファンがついている。北垣さんのしらす愛がお客さまに伝わることで、お客さまと家族のような信頼関係が築かれているのだろう。
土佐角弘海産のしらすをより多くの人に知ってほしいというファンの熱意がメディアにも伝わり、テレビ局や情報誌に取り上げられることもあった。それをきっかけに訪れたお客様から、さらにSNSや口コミで評判が広がり、沢山の方にしらすを食べてもらえる機会が増えたそうだ。
北垣さんは、地域の特産品を活かしたオリジナル商品の開発にも取り組んでいる。
しらすは消費期限が短く、釜あげしらすの場合、その消費期限はわずか3〜4日程度だ。旬のしらすのおいしさを一年中、様々な用途で味わってもらえるように、しらすと地域の特産品を掛け合わせて保存期間の長い商品を作りたいと考えた。
まず取り組んだのが、物部川流域で採れる特産品”山椒”を使った商品だ。関西出身の北垣さんは、京都の伝統的な”ちりめん山椒”を思い浮かべたが、本場のものを超える商品化のハードルが高く、別の方法を模索することにした。
試行錯誤を続ける中で、東京で働くシェフから「山椒としらすとごま油でオイル漬けにしてはどうか」とのアイデアをもらい、開発は一気に進んだ。こうして完成した ”しらすと山椒のオイル漬(金の胡麻油・白の胡麻油)”は、賞味期限を3年間まで延ばすことに成功した。
焙煎したごまを使用した”金の胡麻油”は、料理の上にそのままかけてもパンチがある味わいに。未焙煎のごまを使用した”白の胡麻油”は、まろやかな口当たりで幅広い料理に合わせることができるのが特徴だ。
サラダやピザのトッピング、混ぜご飯や炒飯、パスタ、アヒージョなど、好みに合わせて使い分けることができる。
また、実山椒(みさんしょう)を使用することで豊かな香りが広がり、程良い辛みがアクセントになる。実山椒の枝外し作業は、地域の障害福祉サービス事業所が行っている。小さな実を扱うため、こういった細やかな作業が得意な方に依頼しているという。
「商品をつくるなかで私たちが苦手なことを、地域の方に仕事として依頼できる、それがひとつの社会貢献になれば」と語った。
”行列のできるしらす屋さんのゆず醤油(白・黒)” は、お客さまがしらす丼に醤油をかけた後、さっと柚子果汁をかける光景を目にしたことから開発がスタートしたという。
高知で柚子を生産する “北川村ゆず王国” の協力を得て、柚子果汁の割合を試行錯誤し、最も風味が生きる5割に調整。その結果、 “ゆず醤油” という新たな味が誕生した。
さらに、関西と関東で醤油の好みが異なることを踏まえ、すっきりとした味わいの白醤油を使用した “白” と、コクのある濃口醬油を使用した “黒” の2種類を考案。
食のシーンを考えながら、地域性や味の好みに応じた細やかな配慮が、土佐角弘海産の美味しさを広めたいというお客さまの思いに繋がっているのだろう。
行列のできるしらす屋さんのゆず醤油
また商品のパッケージデザインは、全体的に統一感を持たせ、魅力的な印象を与える工夫を施している。
天日干しした釜揚げしらすを自社工場内でプレスし、旨味をぎゅっと詰め込んだ ”朝獲れしらすのおつまみせんべい” のパッケージは、”パッチ網漁法” をモチーフに、網目越しにせんべいが透けて見えるデザインになっている。裏側の商品読み取りバーコードには、海に浮かぶ船がプリントされており、高知の漁業文化をイメージさせるようなデザインで思わず手に取ってしまう。
現在、土佐角弘海産の商品は北海道から九州まで幅広い地域で販売されている。「妻と二人で全国を周りながら実際に販売先を訪れて、お客さまとの関係を築きながら商品戦略を立てて営業をしていきたい。5年後くらいに実現できたら、と思っています。」と北垣さんは語る。
また、しらすの魅力を伝えるため、しらす漁の様子や加工の工程を配信するYouTubeチャンネルを開設している。そこでは漁師やデザイナーに依頼して撮影された、迫力ある映像を見ることができる。
「しらすは栄養豊富なもの。ご家族連れはもちろん、老若男女問わず遊びがてら訪れてほしい」と北垣さんは言った。
家族のように温かく迎え入れてくれる土佐角弘海産で、極上の "美味しい"に出会いたい方は是非土佐角弘海産の製造直売所へ足を運んでみてほしい。
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