四万十川は、高知県西部を流れる四国最長の大河だ。四国山地の深い森に水源をもち、穏やかな流れが周囲に美しい風景と豊かな自然をもたらしている。四万十川は日本最後の清流とも呼ばれており、その恵みを受けて育った特産品は、どれも極上の味だ。
なかでも、澄み渡った水で育った鮎(あゆ)と鰻(うなぎ)は、クセがなく濃厚で深みのある味わいで、何度でも食べたくなる美味しさだ。
今回は、四万十川のすぐそばで、魅力あふれる商品を作る「四万十生産有限会社」企画営業部の福家和孝(ふけ かずたか)さんに話を聞いた。
四万十生産の設立は平成9年。もともとは、先代が経営していたスーパーマーケットの傍らで焼き鮎を提供していたところ、土産物店などから「ぜひうちでも売らせてほしい」と声がかかり、「これは地元以外にもニーズがある」と感じたことから四万十生産設立に至った。
現在は、鮎は年間4〜6トン(約6万5千匹)、鰻は年間2〜3トン(1万匹以上)を取り扱い、鮎と鰻を中心に地元の特産品を使った商品の製造販売を行っている。
福家さんは香川県出身で、前職はプログラマーだ。高知県に移住後、偶然の出会いがあって四万十生産に入社した。もともと釣り好きではあったが、移住してきて初めて仕事として鮎や鰻に携わるようになる。地元の方々と交流し、川の恵みを活かした四万十川流域の食文化への理解を深めていった。そして四万十川の鮎や鰻が、地域の方が思っている以上に県外で高く評価される魅力があることに気付き、県外のお客さまにその魅力を伝えられるように提案力を身につけていったそうだ。
一般的に、鮎と鰻の出荷時期は、夏に集中する。四万十生産でも、加工品が充実する以前は、夏に仕事が集中していた。そこで、春や秋の行楽シーズン、夏のお中元や冬のお歳暮など、年間を通して四万十川産物を楽しんでもらえるように、ご飯のお供や珍味などの加工品の開発に取り組んだ。販売店のニーズに合わせた商品作りから始まり、少しずつ自社のブランドイメージを確立していった。今では、同じ志をもつ地域の事業者とも連携して、酒盗やカラスミなどの海産加工品やこだわりの調味料なども取り扱っている。
四万十川の清流は、鮎や鰻の美味しさを支える条件が整っている。
鮎は四万十の綺麗な川で成長し、下流で産卵する。その後、孵化した稚魚が再び澄んだ冷たい水を求めて川を上る。
一方、鰻も海で生まれた後に川を上って成長する。四万十川には、小さな魚やエビ、カニなどが多く生息しているため、鰻が育つ環境として最適だ。
これらの川全体の生態系が健康であり、その循環が生まれる四万十川の自然の中でこそ、高品質な鮎や鰻が育つことができるのだ。
四万十川の鮎は、釣っても楽しい、食べても美味しい魚だといわれている。他の地域と比べて脂がのりやすく、釣りを楽しんだ後は高品質の鮎を味わうことができる。天然ものでは “尺鮎(しゃくあゆ)” と呼ばれる30.3センチを超える大きなものもあるという。
炭火で焼くと脂がぽたぽたと滴り、食欲をそそる香ばしい香りが広がる。食べてみると身はふっくらと柔らかく、しつこさのない上品な旨味を味わうことができる。
鰻もまた、自慢の四万十川産物の一つだ。
高知では、鰻を蒸さずにそのままタレをつけて焼き上げる “地焼き” が主流だ。蒸さずにそのまま網の上で焼き上げることで、旨味を逃がさず脂がしっかり残って美味しくなるという。
「鰻本来の美味しさや旨味は、皮と身の間にあるので、皮がパリっとしている方が僕らは好きですね。」と福家さん。関東では、鰻といえばとろけるような柔らかい “蒸し” が主流だ。そのため、高知のパリッと焼き上がった “地焼き” の鰻を食べて、その食感と力強い旨味に驚く人もいるそうだ。
四万十川流域には、古くから受け継がれてきた伝統的な鮎の保存技術や漁がある。
昔は冷凍庫がなかったため、鮎をじっくりと焼き上げて水分を飛ばした “焼き鮎” を長期保存し、料理に使っていた。秋には甘露煮やお吸い物、お寿司、冬には出汁をとったりお歳暮で送るなどといった風習が、今でも残っている。
その伝統の焼き鮎を活かして、四万十生産で開発された商品がある。焼き鮎の出汁が効いている “焼鮎醤油” や “焼鮎ゆずポン酢” 、焼き鮎の入ったビンにお好みの醤油を入れてオリジナルのだし醤油が作れる “川のだし〜焼鮎~” などだ。調味料として伝統の焼き鮎を幅広く日常に取り入れてほしいとの思いで考案された。
他にも養殖の子持ち鮎を焼いてから甘露煮にした “子持ち鮎の四万十煮” など、鮎のおいしさと魅力を引き出す商品を開発することで、地域の食文化を残していくことに努めている。
地域に息づいている鮎の伝統漁法の一つに “火振り漁” がある。夜に火をつけた松明を振りまわし、鮎を網に誘い込んで漁をする。暗闇のなかで松明の描く火の軌跡が美しく、四万十川の夏の風物詩となっている。火振り漁師は、普段は他の仕事をし、漁期の夜だけ川に舟を出して漁を行うという兼業スタイルが多いそうだ。火振り漁師に限らず、栗農家や米農家、林業関係者なども兼業スタイルで働いている人が多く、四万十川とともに暮らす地域ならではの工夫で、伝統が受け継がれている。
四万十生産が扱う養殖の鮎は、県の稚魚放流事業で放流されなかった鮎を活用している。そして養殖で育てた鮎が産んだ卵は、翌年放流する稚魚として育てられる。
養殖鮎を活用することで、四万十川の生態系を守りながら、手頃な価格で四万十川の恵みを多くのお客さまに楽しんでいただける体制を整えているのだ。
また、規格外のものや体に傷がついてしまった鮎も全て加工することで、貴重な鮎を無駄にしないよう工夫している。オリーブオイルとの相性を活かした鮎のアヒージョの缶詰は、その代表例だ。
川の生き物のなかでも、鰻は個体差が大きい魚類だ。よく食べる鰻はどんどん大きくなり、逆にあまり食べない鰻は1年経っても小さいままだ。高知県では養殖鰻を1年〜1年半の期間をかけてじっくりと育てていくが、その間にサイズの選別を3回ほど行うという。
普段私たちが蒲焼きとして食べている鰻は、背骨以外の小骨ごと調理されている。
しかし鰻が大きく育ちすぎると骨が硬くなり、規格外とされてしまう。そこで四万十生産では、大きく育った規格外の鰻を圧力調理で仕上げることで、骨まで柔らかく丸ごと食べられる缶詰にした。脂がしっかり乗った旨味を、無駄にすることなく楽しめるよう工夫されている。
「鰻の養殖業者から、今年は鰻が大きくならなかったが、どうしようと相談があったときにも、品質さえよければ、うちで引き取って加工します。お互いにとってメリットがあり、値段も抑えられるんです。」と福家さんは教えてくれた。
“鮎燻(あゆくん)” は、その名の通り鮎を丸ごと燻製にした商品だ。
燻製商品を考案していたところ、小売店から「見栄えが良くて一目で鮎だと認識できる、甘露煮以外の商品がほしい」との要望を受けて、開発に至った。
通常、鮎をそのまま燻製にすると、皮がしぼんで見栄えが悪くなるうえ日持ちしない。
しかし、一夜干しから燻製にすることで、皮目も美しく風味をしっかり残すことに成功した。更に高圧処理にかけることで骨ごと食べることができ、常温で1年間日持ちする商品が完成した。
福家さんのおすすめは、少し炙ったり、お酒のおつまみとしてマヨネーズと七味を合わせる食べ方だ。他にもオリーブオイルと黒胡椒、レモンの果汁を少しかけてワインと合わせるなど、色々な楽しみ方ができる。
鰻といえば蒲焼きのイメージが強いが、四万十生産では煮つけなど違った食べ方も提案している。鰻と生姜を合わせた“うなぎ生姜”は、現在最も人気のある商品だ。瓶に閉じ込められた爽やかな生姜の風味と鰻のふっくらとした食感が、ご飯にぴったりの逸品となっている。お客さまや生産者から「もっと気軽に鰻を食べられる商品が欲しい」「もう少し手の届きやすい価格帯のものを作れないか」という声を受けて誕生した。
開発にあたり重要視したのは鰻の食感だ。鰻は、煮しめることで身が固くなってしまう。ふっくらとした食感を残しつつ商品化するためのヒントになったのは、海苔の佃煮を製造する際に使用していた寒天の技術だ。この技術を応用して煮こごりのようにすることで、鰻の大きさを縮めず柔らかさを維持したまま、瓶の中に旨味を閉じ込めることに成功した。
使用している “黄金虚空蔵Ⅱ生姜” は有機栽培で作られている。生姜の辛み成分が通常の生姜の倍近く含まれている地元のブランド生姜だ。この生姜農家から「B級品を活かした商品を作りたい」と話があったタイミングが、鰻商品の開発時期と重なったことが開発のきっかけだ。繊維質が少ないお芋のような食感の品種で、独特の辛みが鰻と相性が良く、幅広い層の人気を集めるご飯のお供になった。
「お客さまのニーズに合わせて作り、できるだけ添加物は使わず、必要な分だけにしています。こういうものが余って困ってる、売れなくて困ってるっていう生産者側や加工業者側の困りごとをうまく活用することで、お互い喜んでいける商品を作りたい。そういう声を大事にしています。また、鰻は高価なイメージが強いですが、魚としてとても美味しいんです。特別な日だけじゃなく、もっと日常的に食べてもらいたい。」と福家さんは語った。
シンプルかつ素材の良さを活かしたこの商品は、「鰻一匹は多いけれど、鰻を身近に楽しみたい」という、年配層や一人暮らし、核家族世帯の方々にも喜ばれるサイズ感と価格設定だ。
一企業としてそれぞれが得意なことをして、できない部分は助けてもらう。そういった素材を無駄にせず活かす工夫が、養殖業者、加工業者、そして消費者の笑顔に繋がっている。
元プログラマーとしての知見を活かして、公式ホームページや販売サイトの改修を、デザインから構築まで全て福家さん自身で行っている。力の込もったブログは、読みやすい文章で鮎や鰻を身近に感じる工夫がされている。
「できるだけシンプルにというのが僕の考えなので。商品を作る時にも、ホームページのデザインも。メーカーとしては原料を見てもらいたいので、鮎なら鮎の顔が見えるように。素材の魅力を伝えて、お客さまへの架け橋になることを心がけています。情報発信を続けて、四万十生産に辿りつく道を作ることができれば、それが営業成功だと思ってます。」と福家さんは語る。
現在、地元の高校生と一緒に、鰻の蒲焼きのタレの甘さを辛口にするというコラボ商品を開発中で、こういった活動でも鮎と鰻の魅力を広げている。
また、四万十生産では鮎や鰻の廃棄部分ゼロを目指す工夫をしており、鮎の内臓は珍味として、骨は焼いて出汁にする。鰻も骨から出汁をとっている。試行錯誤は大変だが、仕事の面白い部分であり、その可能性は大きいという。
そして鮎・鰻のもつ高級感から、贈答品の開発にも力を入れている。商品を考案するうえで、「誰かにあげて喜ばれる」ものという部分は外せない。鮎の内臓を使った塩辛である “鮎うるか” は、特にお酒好きに喜ばれるギフトとして人気だ。約1年かけて熟成された “鮎の卵うるか” は、少量でもその旨味が口の中に広がる。パスタや炒め物などの調味料として使用したり、クリームチーズやクラッカーと合わせるのもおすすめだ。
自身を「高知県のマニアック担当です」と語る福家さんは、鮎と鰻のイメージを変えられるよう、食べ方の提案まで含めてさらに美味しい商品を考案中だそうだ。
自社で開発した商品は全部好きだと語る福家さん。
「鮎と鰻は本当に美味しい魚。夏はもちろん美味しいけれど、お茶漬けでもご飯のお供でも、色々な食べ方があることを知って、それ以外の時期も長く楽しんでほしいです。 ”四万十” という言葉は広まってきているけれど、もっともっと多くの人に来てもらいたい。僕らの商品をきっかけに興味を持って、四万十に来る人が増えると嬉しいです。商品をお土産に買って帰って、こんなとこあったよって広めていただけることが理想です。」
旨味がぎゅっと詰まった加工品作りの舞台裏には、地域産業の連携と創意工夫が隠されている。そこには、食卓にのる商品一つひとつへの熱意が込められていた。
四万十生産の商品はオンラインショップ及び、空港や道の駅、土産物店などで販売されている。興味を持った方はぜひ、四万十川の恵みを味わってみてほしい。そしてその味わいを育んだ四万十川へ、実際に足を運んでみてはいかがだろうか。
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