宗田節(そうだぶし)とは、カツオの仲間である ”マルソウダ(メジカ)” から作られる、魚の節の一つだ。使い方はカツオ節と同様だが、カツオ節より旨みや香りが強いことから、プロの料理人に親しまれている。
また、宗田節は血圧上昇抑制や疲労回復に効果があるといわれているタウリンをはじめとするアミノ酸類の含有量がカツオ節よりも多いことも特徴の一つである。
今回は、宗田節の生産量日本一を誇る土佐清水市で、最高峰の味を目指し、探求心を持って作り続けている「新谷商店」の新谷重人さん・瞳さんご夫婦に話を聞いた。
大正10年からカツオの “節” の製造・卸販売を始め、今年で創業104年を迎える新谷商店。 昭和30年頃からメジカの ”節” の製造・卸販売がメインとなり、現在では削り節やその他商品の小売販売も行っている。
削り節の製造・販売を始めたのは平成18年。
当時は “節” の卸販売がメインだった。
節の卸販売から消費者向けの加工品製造へと事業の軸を変えるきっかけとなったのは、メジカの漁獲高の減少だ。
約30年前は土佐清水で年間1万4千トンほど水揚げされていたが、近年では年間1千〜3千トンほどで今までの10分の1の量になっている。
大量に取り扱うことでコストを下げて利益を積み重ねていく卸販売業者にとって、漁獲量の低下は事業の継続に大きく影響した。
また加工品製造へシフトする上で大きな課題となったのが、宗田節の認知度の低さだ。
20年ほど前まで、地域住民が宗田節を味わう機会はほとんど無かった。
というのも、宗田節の取引先は東京・大阪といった都心部が中心であり、土佐清水では宗田節を作るだけで消費されていなかったためだ。
地元水産業のこうした状況に危機感を抱いた先代(新谷さんの父)は、
加工組合や行政、新聞社の方と「この土佐清水の火を途絶えさせてはいけない」との思いで認知度拡大に取り組んだ。
まず始めに行ったのは食育である。子どもの舌はとても敏感で嘘がないと考え、
小学校や保育園に出向き、宗田節の作り方の説明や、宗田節を使ったお味噌汁を食べてもらう活動を行った。
また販売店の前にテントを立て、味噌、ネギ、削り節で作った茶節(即席のお味噌汁)を提供するなど、少しずつ宗田節の認知度を地元に広めていった。
本格的に小売業に取り組んだのは、
東京の銀座にある高知県のアンテナショップ ”まるごと高知” での販売がきっかけだ。
新谷商店が地産外商に携わったのはこの時が初めてで、「今考えると新規事業みたいだった」と新谷さんは話してくれた。
削る前の宗田節を箱へ詰めて問屋へ卸すという事業から、自社商品を開発し、商品を小売店へ届け、お客さまに売るという事業への変化。
卸販売とは考え方が違い、当初は苦戦したという。
細かい原価計算や遠方への送料、箱代などの設定を手探りで行い、上手くいかない時期が続く中、高知県地産外商公社や、同じような生産者の方にアドバイスをもらいながら小売業を学んでいった。
また地元のデザイナーと相談し、一目で “新谷商店の宗田節” だと分かるパッケージづくりに取り組んだ。
お客さま目線での分かりやすさを重視したパッケージデザインは、新谷商店のこだわりの1つとなっている。
当初は苦労の連続だったが、東京の”まるごと高知”で取り扱っているということが、その後の取引拡大に繋がったという。
そして徐々に、節の製造卸から削り節の加工品製造へと事業のメインが変わっていった。
現在のデザイン
節にする場合、メジカの脂が多いと酸化しやすくなったり、出汁が濁り雑味がでてしまうなどがある。
そのため新谷商店では、生のメジカを節にする製造を、型は大きいが脂の少なくなる2月のみ行い、それ以外は年間を通して削り節商品を製造している。
季節によってメジカの状態が異なり、できあがる宗田節も様々なため、2月に限定することで品質を一定に保つことができる。
2月は従業員数たったの9名で1日に約4トンのメジカを手でさばき、火を入れていく。忙しい中でも、お客さまが求めてくれる商品作りを意識しているという。
そんな新谷商店の一番の人気商品は ”卵かけご飯専用宗田節” だ。
この商品は、新谷さん自身が卵かけご飯に削り節をかけて食べていたことから生まれた。地元のデザイナーの「出汁売り場ではなく卵売り場へ陳列出来たら面白いのでは」というアイデアから、自立するコンパクトなパッケージが考案された。極上の寒メジカだけを使用し、削る作業では限界まで薄さを追及することで、口当たりが良い自慢の逸品が完成した。
また、日本食に欠かせない商品、”うす削り”と “厚削り”。お出汁用におすすめなのが ”厚削り” で、お野菜や料理にかけるのがおすすめなのが ”うす削り” だ。
”粉末だし” はカルシウムも摂取できるため、出汁をとる手間をかけられない忙しい方にも人気の商品だ。
左:カツオ 右:メジカ
またメジカの漁は、一度に大量に網で漁獲する巻き網漁ではなく、釣り糸を複数本引いて釣る曳縄漁(ひきなわりょう)で行われている。
鮮度が命とされるメジカにとって、魚体への傷を防ぎ、ストレスを軽減することで身の質も良くなる漁法だ。そして必要な魚だけを狙うことで、環境にも配慮されている。
宗田節を作るうえで新谷さんは「土佐清水でとれる最高のメジカを、その品質を維持しながら一番の宗田節にすることが僕らの責任だ」と語ってくれた。
平成22年には宗田節の認知度拡大のため公式ホームページを開設し、
毎月24日の”節の日”にブログを更新している。
また、初めて購入いただいたお客さまでも宗田節の活用方法が分かるよう、毎週金曜日にレシピの投稿も行っている。
美味しい商品を届けるだけでなく、購入後の活用方法までサポートするなど、お客さまへ寄り添う姿勢も新谷商店の魅力の一つだ。
創業100年の節目に代表取締役に就任した新谷さん。一番大変だったと感じたのは、代表になる前のコロナ禍の時だったそうだ。
この時期は売り上げが落ちたため、経費削減に着手することに決め、外部へ委託していた会計などを勉強して自身で行うようにした。
コロナ禍では製造量が減り、ホームページのリニューアルや新商品の開発など、新しいことにも挑戦してきた。
おつまみ感覚で楽しめる”宗田節燻製クリスプ”は、
そうした挑戦のなかで生まれた商品だ。
1年かけて試行錯誤を繰り返し、高知県産の材料にこだわった ”ゆず塩味” と ”生姜醤油味” が誕生した。醤油は坂本龍馬に愛されたという福井県産 ”龍馬” を使用している。
この仕事について新谷さんは、「自分たちの仕事をするのは当然だが、自分たちだけでできる商売ではない。
海にメジカがいて、それを獲る漁師さんや、メジカを燻製するための木を伐採する山師さんがいて、初めて商売が成り立つ。それも始まりにしかすぎない。
人の手が入って木を伐採することによって、また新しい木が育ち、山が綺麗になったら流れる水も綺麗になって、海の魚も育つという流れがある。そのことに気づいたときに仕事の意義も少しずつ見えてきた。
地域社会と密接して、自分たちのところだけじゃなく他のところにも利益が出る、社会に貢献できる企業でありたいと思う」と語った。
製造工場にて説明してくださる新谷さん
将来のビジョンについて新谷さんは、会社を大きくしたいとか、売上を伸ばしたいといったことを、あまり考えたことがないと教えてくれた。「原魚がなくなったり不漁が続いたりすると、会社を大きくしてもすぐに危機が訪れる。
自分たちができる範囲で貴重な原魚を扱いながら、今まで通り仕事を続けていきたい」という。
そんな新谷さんの目標は常に現状維持。
しかし、そのためには日々変化が必要である。ものづくりや会社の経営を継続していくためにはどうすべきかと考えたときに出てきたのは、
美味しい商品を作り、安定してお客さまにお届けできるようにすること。生きている限りは誠心誠意やっていく、ということだ。
もちろん新商品も作っていきたいが、自分たちの手も限られているため、できる範囲で本当に美味しいものを作って、
商品を買ってくださるお客さまの思いに応えられるような仕事をしていくこと。
そして宗田節をもっと多くの人に知ってもらいたいというのが、新谷さんの思いである。
「土佐清水で宗田節を作る一番の意義は、土佐清水の沖で釣れた新鮮な魚を、その場ですぐ節に加工して、
さらに商品化まで地元で完結できること。これは土佐清水でしかできないことで、世界に誇れる価値だと思う。
土佐清水で水揚げされるメジカは世界一のメジカ、それを是非多くの人に食べてもらいたい」と新谷さんは語った。
沢山の人へ美味しいものを届けるため、毎日ひたむきに宗田節と向き合う新谷商店。この商品づくりに込められている揺るぎない信念と愛情が、一つひとつの商品の奥深い味わいへと繋がっているのではないだろうか。
新谷商店では、お好きな醤油で出汁醤油が作れる ”だし醤油用宗田節” や、麺類のつゆ、煮物など幅広い料理に使える ”宗田節だしつゆ” など、自分に合った商品を選ぶことができる。
いつもの料理を手軽にワンランクアップさせたいなら、ぜひ新谷商店の
公式サイト を覗いてみてほしい。きっと一味違う魅力が詰まった宗田節に出会えるはずだ。
自社商品を販売するECサイトを保有する
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