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素材の力と産地の想いを届けたい

高知県土佐清水市といえば、足摺岬で知られる四国西南端の町だ。ここで水揚げされる良質なさばは、一尾一尾丁寧に処理され、「清水(しみず)さば」として全国で親しまれている。

そんな港町で水産加工業を営むTaijuの山岡大樹(たいき)さんと佳代(かよ)さんご夫婦に話を伺った。

Contents

「Taiju」とさば漁を取り巻く現実

Taijuは、2018年に創業した。屋号の由来は、山岡さんの名前「大樹(たいき)」からきている。
主に取り扱っているのは、清水さばや鰹。厳選した素材を鮮度の高いうちに丁寧に処理し、全国へ届けている。

高知県は全国的に見ても漁業が盛んな地域だが、漁獲量は全盛期だった1980年代と比べて減少傾向にある。
清水さばも例外ではなく、水揚げ量は年々減ってきていると山岡さんは語る。

その背景のひとつとして、山岡さんが挙げるのが漁業者の減少だ。10年ほど前には30隻ほどあった漁船の数も、現在は7隻程度まで減っている。海水温の上昇など環境変化の影響も考えられる一方、山岡さんは現場で感じる大きな要因として、漁業者の高齢化や後継者不足を挙げる。

そんななか、清水さばの大きな魅力となっているのが鮮度の高さだ。一般的な市場では前日に水揚げされた魚が翌日の競りに並ぶこともあるが、清水漁港の入札は毎朝8時半。その日の朝に水揚げされたばかりの活魚が並ぶため、新鮮な状態で仕入れることができる。

量より質を貫く素材選び

山岡さんが大切にしているのは、土佐清水で水揚げされた魚を使うこと。さばはもちろん、鰹も土佐清水産にこだわり、タタキに使う藁まで地元産を使用している。

Taijuが何より重視しているのは、量ではなく素材の質だ。大量生産や安定供給を優先するのではなく、本当においしい状態で届けられるものだけを選ぶことを大切にしている。そのため、山岡さん自ら入札へ足を運び、一尾一尾の状態を見極めながら仕入れを行う。

たとえば100kgの水揚げがあったとしても、すべての魚が同じ状態とは限らない。Taijuでは一括で買い付けるのではなく、触感や見た目などを確かめながら、本当に納得できるものだけを選び、競り落としている。

そこにあるのは、「おいしくない商品をお客様に届けたくない」という思いだ。いつ選んでも「おいしい」と感じてもらえる商品を届けたい。だからこそTaijuは、量ではなく、質を最優先した商品づくりを続けている。

鮮度を守るスピードと丁寧なものづくり

競りを終えて工場へ戻ると、すぐに加工を始め、午前中には下処理を終える。

「〆さば」の場合は、9時から下処理を始め、10時には塩締め、11時には酢漬けへと工程を進め、15時ごろには仕込みを終えると山岡さんは語る。

ここまでスピードにこだわる理由は、魚の硬直が進む前に加工を終えるためだ。直前まで水槽で泳いでいた活さばも、処理を始めると徐々に硬直が進んでいく。硬直が進みすぎると、身の食感や風味にも影響が出てしまうとのことだ。

そのためTaijuでは、一度にすべてを捌くのではなく、数本ずつ小分けにして加工する。カットしたものから順番に真空処理へ回し、鮮度を保ったまま冷凍する。

こうした一つひとつの工程を丁寧かつ素早く行うことで、身の透明感や弾力をできる限り保ち、遠方でも清水さばのおいしさを楽しめる商品に仕上げている。

「立縄漁(たてなわりょう)」

Taijuの品質を支えているのが、伝統的な「立縄漁(たてなわりょう)」だ。水深150メートルほどの深場へ垂直に伸ばしたテグスに、数十本の針を仕掛けてさばを釣り上げる。網で一度に獲る漁法とは異なり、魚への負担を抑えながら漁獲できるのが特徴だ。

立縄漁で釣り上げられたさばは、一尾ずつ手作業で仕掛けから外され、そのまま船の水槽へ移される。網の中で魚同士が擦れ合うことが少ないため、ウロコが剥がれにくく、きれいな状態を保ちやすいと山岡さんは語る。また、三枚に下ろした際にも、身に血走りが出にくく、見た目の美しさや味わいにもつながっているそうだ。

さらにTaijuでは、加工の際の「血」の扱いにも細心の注意を払う。包丁やまな板を清潔に保ち、血を丁寧に取り除きながら一尾ずつ捌いていく。魚への負担をできる限り抑える漁法と、仕入れた後の丁寧な処理。その積み重ねが、Taijuの商品のおいしさを支えている。

信頼で結ばれた取扱店舗とのつながりと妥協なき価値設定

「清水さばの漬け」に使われる活魚は、市場の競りとは異なり、一尾ごとに価格が決められている。市場相場が下がったからといって安く仕入れられるものではなく、原材料にかかるコストを簡単に抑えることはできない。

さらに近年は、包材や資材などの価格も上昇している。それでもTaijuでは、仕入れ価格と品質のバランスを大切にしながら、商品の価値に見合った価格で販売している。

そんなTaijuの商品へのこだわりを理解し、支えているのが取引先の存在だ。高知県内外の長く付き合いを続ける取引先とは、深い信頼関係が築かれている。

品質を優先するため、仕入れ状況によっては商品を用意できないこともある。それでも、取引先が入荷を待つお客様のために売り場を空けて待ってくれることもあると山岡さんは語る。日頃から直接コミュニケーションを取りながら、旬や入荷状況を共有し、納得できる商品だけを届けている。

その姿勢は、自社で開発した「フルーツトマトのうまみぽん酢」にも表れている。トマトの旨味と宗田節の出汁の相性に着目し、春野町にある「岡崎農園」との出会いをきっかけに生まれた商品だ。

開発当初に目指した味を大切にしながら、小容量の商品として仕上げている。また、新発売の「鰹のタタキ専用ダレ」と用途を明確にすることで、県外の人にも使い方や楽しみ方が伝わりやすい商品として提案している。

イベント出店でも、食べる人への配慮を欠かさない。定番で人気の清水さばの漬け丼に加え、生魚が苦手な人でも楽しめるよう、スパイスから仕込んださばカレーを用意する。商品を届けるときも、イベントで提供するときも、常に食べる人の立場を考えることがTaijuの商品づくりにつながっている。

誠実さが生む感動の連鎖とSNSでの発信

「人生で一番おいしかった」「本当に感動した」。そんなお客様から直接届く言葉が、山岡さんご夫婦にとって大きな励みになっている。対面での声だけでなく、Instagramのダイレクトメッセージなどを通じて、感想が寄せられることも多いと山岡さんは語る。

Instagramでは、日々の魚や商品の様子をリアルタイムで発信している。自然光を生かしたありのままの写真を掲載することで、魚本来の色や艶、鮮度感をそのまま伝えることを大切にしている。

山岡さんが大切にしているのは、目先の売上ではなく、商品を受け取った人に心から満足してもらうことだ。その姿勢は、お客様とのやり取りにも表れている。

例えば、鰹のタタキの注文が入っても、まだおいしい時期ではないと判断すれば、「脂が乗って本当においしいのは春の初鰹や秋の戻り鰹の時期です。今無理をして買うよりも、一番美味しい季節まで待ちませんか。」と伝えることもある。売ることを優先するのではなく、本当に納得できるものを味わってほしいという思いがあるからだ。

「おいしかった」と感じた人が誰かに商品を贈り、受け取った人がさらに次の誰かへ贈っていく。そうしてTaijuの商品が人から人へとつながっている。山岡さんご夫婦は「期待に応え続けたい」という思いを持ちながら、日々一つひとつの仕事に丁寧に向き合っている。

Taijuが描く今後

山岡さんご夫婦が今後の事業展開として描くのが、自分たちの店舗を持つことだ。自分たちが手掛けた商品が全国の家庭に届き、味わってもらえることもうれしい。一方で、目の前で料理を提供し、直接『おいしい』という言葉を聞き、笑顔を見られることは、また違った喜びがあると山岡さんは語る。

その計画に向けて、日頃から取り組んでいるのがメニュー開発だ。夫婦2人で店を営むことを想定しながら、「これなら自分たちでも提供できるのではないか」と試行錯誤を重ね、少しずつイメージを膨らませていると山岡さんは語る。

ただ、土佐清水で飲食店を長く続けていくことは、決して簡単ではない。
イベントや地元飲食店でのコラボ出店などに取り組んでいるものの、高知市内から車で約2時間半かかるため、平日の集客には課題があると山岡さんは感じている。

また、地元で人気の飲食店には、ボリュームがあり、手頃な価格で楽しめる店も多い。そうした地域の特性や周囲の店舗を踏まえながら、自分たちの強みをどう生かした店にするのかを慎重に考えていく必要があると山岡さんは語る。

もう一つの課題が、県外における「高知といえば鰹」という強いイメージだ。
Taijuでは土佐清水市内の観光施設で、鰹と清水さばの2種類の藁焼き体験を行っている。その中でも、鰹に比べて清水さばの認知度はまだ高くないと感じることがあると山岡さんは語る。

「『土佐清水といえば清水さば』というのは、僕たち高知県民にとっては当たり前の感覚です。でも、県外ではまだ十分に知られていないのが現実です。お店を持つとなると、そうした認知度も大きな課題になると思います。それでも、一つひとつ向き合いながら、自分たちが出来ることを考えています。」

自分たちの店を持つという計画に向けて、地域の現状や課題にも向き合いながら、山岡さんご夫婦は少しずつ準備を続けている。

誇りをのせて届ける本物の味

「『清水さば』とその伝統的な漁法は、胸を張って誇れるものです。
漁師さんたちが頑張っているからこそ、私たち加工業者も妥協のない仕事でその情熱に応えていきたい。まずは一度、本物を味わってみてください。」と、山岡さんご夫婦は語る。

素材を大切に選び抜き、鮮度にこだわり、丁寧な製法で商品を提供している山岡さんご夫婦。その姿勢は、商品を手に取るお客様にも伝わり、確かな信頼につながっている。

「本物の味」を守り抜き、漁師さんやお客様の思いをつなぐ二人の手仕事は、今日も高知県・土佐清水の地から全国へと温もりとともに届けられている。ひと口頬張れば、その情熱と誠実さが、確かな旨味となって心を満たしてくれるだろう。

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