シュトーレンは、バターやスパイスの香る生地にドライフルーツやナッツが練り込まれたドイツ発祥の伝統的なお菓子だ。
常温で長期間保存することができ、日を重ねるごとに熟成してしっとりと味わい深くなっていく。ドイツでは、クリスマス前の"アドベント"と呼ばれる期間にシュトーレンを毎日少しずつ食べ、その味の変化を楽しみながらクリスマスを待つという文化がある。
そんなドイツの伝統菓子シュトーレンを、四万十の旬の素材で作っている、小清水 緑(こしみず みどり)さんと前 成照(まえ みちあき)さんご夫婦に話を聞いた。
小清水さんは神奈川県、前さんは広島県出身だ。2人とも高知県へ移住する前は東京に住んでいた。
小清水さんは、東京ではソーシャルワーカーとカフェ運営の2つの仕事をしていた。
ソーシャルワーカーの仕事はやりがいがあったが、当事者のサポートをしているうちに、型にはめるような支援をしなければならないことに違和感を覚えていた。
ソーシャルワーカーの仕事と並行して取り組んでいた週1日のカフェ運営では、自分らしく働ける、型にはまらない仕事を自分で作り出すという充実感があった。この経験から、型にはまらない、“色んな生き方”が実現できる仕事を、自分で作り出していきたいと強く思うようになった。
小清水さんがそう思った矢先、東日本大震災が起こった。首都圏では、地震の揺れによる被害だけでなく、膨大な人口を支える電気や交通機関といった生活基盤の機能が停止し、街に人があふれてしまった。
小清水さんは、東京で暮らすことの“余白”のなさを痛感し、自立して生きていける場所で暮らしたいと考えるようになった。
(左)前さん、(右)小清水さん
前さんもまた、東日本大震災の経験をきっかけに自分で生きる力をつけたいと強く感じるようになったという。
東京ではホテルの料理人として働いていたが、自分で生きる力を身につけるには、自分自身が看板となって、自分の力で人と繋がっていくことが大切だと考えた。そこで、移住して自ら事業を立ち上げることを決意した。
2人の思いが重なったときに、有機農家の方との繋がりを辿って、四万十町への移住を決めたそうだ。
移住後は四万十町の先輩農家のもとで、四万十町での暮らしや農業について多くの学びを得た。
四万十町での暮らしに慣れるにつれ、教わったとおりに仕事をするだけでなく、自分たちで “作る”事業をしたいと思うようになった。そこで、四万十町の素材を使用した料理を作り、マルシェなどのイベントで販売するようになった。そして2012年の12月に、料理を提供しながら焼き菓子なども販売するカフェ“カゴノオト”をオープンした。
カゴノオトの名前の由来について前さんは、「“籠(かご)”は人によって中に入れるものや、持っていく場所が違います。使い方の幅が広くて、風通しもよく色んなものが出入りします。私たちも常識に捉われずカフェのほかに様々なイベントを行いたいという思いがあったので、“カゴ”を名前に使おうと思いました。そして、様々な人が交流し、それぞれの面白い“音(おと)”を響かせてほしいという願いで“オト”を付けました。」と教えてくれた。
四万十町に移住後は、身近なところで果物や野菜が育つことや、育てている人の顔がわかることが、とても貴重に感じるようになった。それらを一度に食べるのではなく大事に味わいたいという思いから、素材を粗糖に漬けて保存していた。この保存している素材が増えてきたときに、いろいろな素材を使用するシュトーレンと結びついたという。
小清水さんはシュトーレンというお菓子に思い入れがあった。シュトーレンと出会ったのは大学生の頃で、偶然訪れた小さな洋菓子店のシュトーレンを食べたとき、その美味しさに衝撃を受けたそうだ。
小清水さんの通っていた大学では、毎年冬になるとクリスマスに向けて華やかに装飾され、学校全体がクリスマスを祝う楽しい雰囲気に包まれていた。クリスマスに向けて毎日少しずつ味わい深くなるシュトーレンと、クリスマスに向けて少しずつ華やかになる学校の雰囲気とが重なり、シュトーレンが大好きになった。
カゴノオトでは、2013年からシュトーレンの販売を始め、SNSで発信をしていた。SNSや口コミで評判が広がり、シュトーレンの注文が増加してきたことから、2019年に四万十町十和より四万十町窪川へ移転し、シュトーレン専門店としてリニューアルオープンした。
(左)オープン時のカフェ カゴノオト、(右)現在のカゴノオト
カゴノオトは、素材へのこだわりを大切にしている。
シュトーレンに用いるフルーツや野菜は、四万十町や周辺地域で出会った生産者のものを使い、小麦粉は北海道産の“春よ恋”と、佐賀県産の“内麦香梅”を使用している。小麦の風味が際立ち、豊かな味わいを生み出すそうだ。
また、砂糖はコクと自然な甘みを生み出すため、鹿児島県種子島産の粗糖を使用している。
前さんは、「東京でコックをしていた頃は、食材を発注すれば次の日に業者が届けてくれていました。ですが四万十では生産者さんと直接会って素材の魅力を知ることができます。それが楽しいと感じますし、一番大切にしていることです。」と教えてくれた。
いただいた素材の良さをそのまま活かすことで、生産者から受け取った思いを商品を通してお客さまに届ける。そしてお客さまの声をまた、生産者へ届ける。カゴノオトのこだわりには、生産者への敬意が込められていた。
“1年かけた四万十の旬でつくるシュトーレン”の製造には、その名の通り1年間という時間を要する。1年を通じて各月の旬の素材を厳選し、計12種類を集めながら丁寧に仕込んでいく。この12種類の素材は、全て四万十で出会った方が生産したものだ。
例えばゆずの場合、12月に仕入れを行い、刻んだゆずを粗糖とともに袋へ入れて熟成させる。3ヶ月漬け込み、皮に甘みが浸透したところで種を取り、細かく刻む。素材本来の風味を活かせるよう、時間と手間をかけて作られている。
しかし、台風や冷害など自然災害の影響を受けると、調達が大変な年もあるという。
1年かけた四万十の旬でつくるシュトーレンは冬の商品だ。予約販売も行っており、発送は11月下旬以降になる。早い方だと、発送時期の1年前から予約してくれるそうだ。
コロナ禍のときには、「高知に帰りたいけど帰れないので、高知の素材を使ったシュトーレンで年末年始を過ごします。」と県外在住の高知県出身のお客さまが多く購入してくれた。
また「カゴノオトのシュトーレンを1年の終わりに食べることで、大切な人との思い出を振り返る時間になる。」と、定期便を注文してくれているお客さまもいるという。
毎年阪急うめだ本店で行われるイベント“きっと見つかる私のシュトレン”でも、カゴノオトのシュトーレンは人気を博している。
お客さまから「チョコレートのシュトーレンは無いか」という声が多く寄せられたことから誕生したのが、“四万十ショコラシュトーレン”だ。
できるだけ食品添加物を使わずに作りたいという思いから、日本全国を探して辿りついた有機チョコレートを使用している。さらに、四万十産のいちごや金柑、ゆずを使用し、甘さ控えめで濃厚な味わいに仕上げている。赤ワインやウイスキーなどのアルコールとも相性抜群で、2026年には阪急うめだ本店の“阪急バレンタインチョコレート博覧会”にも出品した。
カゴノオトの商品の一つである“四万十川源流のお茶シュトーレン”は、2025年6月のクラウドファンディングで誕生した。
素材は、四万十川源流の津野町で栽培されている“かぶせ茶”が使用されている。かぶせ茶とは、収穫前に1〜2週間ほど寒冷紗(かんれいしゃ)と呼ばれる覆いを茶の木に被せ、日光を遮りながら育てた茶葉のことだ。抹茶よりも苦みが強くて大人な味わいだが、有機ホワイトチョコレートを加えることで、苦みと甘みのバランスが絶妙にマッチしている。
春や夏といった季節ごとの限定商品もおすすめだ。
“春の旬でつくるいちごシュトーレン”は、四万十の3つの農家から仕入れたいちごをブレンドして作っている。どこを切ってもいちごが楽しめるように巻かれており、スパイスを入れることで春を感じる風味になっている。優しい味わいで、子どもから大人まで楽しめるシュトーレンだ。
(左)ショコラシュトーレン、(中)お茶のシュトーレン、(右)いちごシュトーレン
「冬の間だけとか、1年に1回とかじゃなくて、シュトーレンをもっと知ってもらいたい。」と小清水さん。通年楽しめるシュトーレンの開発を進めているそうで、今後も新商品が楽しみだ。
小清水さんが好きな食べ方は、四万十川源流のお茶シュトーレンに高知産の烏龍茶をあわせて食べることだ。濃厚なシュトーレンに、スッキリした味わいの烏龍茶があうそうだ。
また、カゴノオトでは、定期的にペアリング企画を行っている。2024年は、クラフトビールブランドのTOSACO(とさこ)で知られる“合同会社高知カンパーニュブルワリー”瀬戸口さんにインタビューをした。その際に高知カンパーニュブルワリーの商品である“ありがとさこ(ヘイジーIPA)”は、同じく高知県産の素材を使用しているため味の方向性が似ていておすすめだと教えてくれたそうだ。
ありがとさこヘイジーIPA
コロナ禍を経て世の中が大きく変化し、人との間に距離が生まれたり、AIの進化によって物事の進むスピードが加速している。そんな時代だからこそカゴノオトは、お客さまに手紙を書いたり、直接顔を合わせて話をしたりすることによって人との繋がりや交流を大切にしているそうだ。
前さんは大変な時期を乗り越えるためには、その人自身の持つ力や可能性が問われてくると感じている。社会という大きな仕組みの中で、一人ひとりの個性を尊重し、不器用でも多種多様な人々が輝ける社会にしたいと語る。
現在カゴノオトで販売している紅茶“花ノヨソオイ”やほうじ茶“香リノオト”のパッケージは、障害者地域活動支援センター“アートセンター画楽”とのコラボ商品だ。
小清水さんは、カゴノオトの事業を通して、多様な人が暮らしやすい世の中になってほしいという思いで商品づくりに取り組んでいる。
"花ノヨソオイ"や"香リノオト"のパッケージ
「技術が発展して簡単に色々なものが量産出来るようになった時代だからこそ、手間暇かけて作ることを大切にしています。早さや安さでは勝てませんが、生産者さんやお客さまと一緒に生きていく、気持ちの部分では負けません。高知には魅力的な人がたくさんいるので、楽しい取り組みをしながら皆で高知を盛り上げていきたいです。」と前さんは言う。
小清水さんは「5月から10月にかけて、四万十ではとても綺麗な景色が広がります。シュトーレンから繋がって、実際に四万十に遊びに来ていただけると嬉しいです。」と話した。
シュトーレンの他にもしまんと果実タルトなど、四季を感じる商品から通年楽しめるものまで多くの商品を販売している。
また、公式ホームページでは商品作りの背景や素材の紹介など、公式Instagramではライブ配信も行っている。
人と想いを結ぶカゴノオトのシュトーレン。どの瞬間にも寄り添ってくれる洋菓子に出会いたい方は、店頭はもちろんオンラインショップにも立ち寄ってみてほしい。きっとカゴノオトの紡ぐ温かさに心まで魅了されるはずだ。
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