日本では、和牛と言えば“黒毛和牛(黒毛和種)”が多くを占めている。なかでも、三重県の “松阪牛” や兵庫県の“神戸ビーフ”などのブランド和牛は、良質な脂とサシ(霜降り)がもたらす風味や食感から、高い人気を誇っている。
一方、高知県で飼育されている“土佐あかうし”は、全国的に飼育頭数が少ない“褐毛和種(あかげわしゅ)”という希少品種だ。黒毛和牛と比べて筋肉質で、サシの少ないきめ細やかな赤身肉と、さらっとした口溶けの良い脂が特長だ。
今回は、市場になかなか出回らない、土佐あかうしの魅力について、土佐あかうし協会の德弘誠(とくひろまこと)さん、山本英貴(やまもとひでき)さんと、生産者である川井畜産の川井規共(かわいのりとも)さんに話を聞いた。
現在、褐毛和種には“熊本系”と“高知系”の2種類が存在する。
熊本系は全身が褐色であり、飼育頭数は全国で約1万9,000頭だ。一方で高知系の土佐あかうしは、目の周りや鼻、蹄、尾が黒い“毛分け”と呼ばれる特徴を持ち、飼育頭数は約2,500頭程で、これは日本全国で飼育されている和牛のわずか0.1%だ。
さらに、サシが細かく脂の融点が低いことから、脂のキレが良く喉ごしが滑らかで風味豊かなことも特長である。こうした飼育頭数の少なさや赤身の美味しさから、土佐あかうしは “幻の和牛”といわれている。
和牛の格付をあらわす基準として、よく“A5ランク”や“A4ランク”という言葉が用いられている。これは、霜降りの度合いや脂肪の質なども含めた評価基準であり、脂肪が少ない土佐あかうしの美味しさを評価する基準としてはそぐわない部分があった。
そこで高知県では、土佐和牛ブランド推進協議会を中心に、肉の味が濃いこと、余計な脂肪分(脂身)が少なく、赤身がしっかり充実していることなど、土佐あかうしらしい美味しさを評価するための独自基準“TRB規格”を制定した。この基準に基づいて、高い評価を受けた土佐あかうしは、“Tosa Rouge Beef”として流通する。
TRB規格では、より“土佐あかうしらしい赤身肉”のなかでも、良いものを“R4”、より良いものを“R5”とランク付けしている。土佐あかうしを食べるときには、ぜひこのTRB規格を参考にして欲しい。
土佐あかうしは、高知県の山間部を中心に県内各地で飼育されている。なかでも、四国の真ん中に位置する土佐町での飼育が盛んである。
土佐町は、豊かな自然と水資源に恵まれた地域であり、棚田米の産地としても知られている。農業と畜産を組み合わせて、資源を無駄なく活用する循環型農業が盛んな地域であり、土佐あかうしは地域産業に欠かせない存在となっている。
その土佐町で土佐あかうしを飼育している川井畜産は、川井さんご家族5人と従業員2人の計7人で、約350頭の牛を管理している。子牛の生産から肥育・出荷までを一貫して行うことがこだわりだ。
もともと、川井さんの祖父の代では米作りが中心だったが、川井さんの父の代に土佐あかうしを中心とした和牛の飼育に取り組むようになり、現在は米栽培と畜産を半々で行っている。
川井さんは幼い頃から牛と関わる中で、自然と「牛飼いになりたい」と思っていたそうだ。畜産の先進地である宮崎の農業大学校へ通い、学校で牛の飼育を行ったり、研修先の農家で一貫経営を学んだ。
卒業後は地元に戻り、約50頭規模の牛舎を新設し、3代目として本格的に仕事を始めた。
川井畜産で飼育されている和牛のうち、約7割が土佐あかうしだ。現在、1年の出荷量はあかうし、黒毛和牛を合わせて約100頭。1年1産を基本とし、年間でおよそ100頭の子牛が生まれ、ほぼ同数を出荷している。
与えている飼料は、稲藁と麦藁を配合した粗飼料や、トウモロコシ、麦フスマ、小麦などの穀類を配合した濃厚飼料だ。米作りで出た規格外の米も、飼料として活用している。
この飼料は月齢によって配合や量を変える。よく育った牛の中には、1日に10キロ以上食べる牛もいる。順調に食べて成長した牛は体も大きくなり、適度な霜降りが入るという。川井畜産では、牛が若いうちの“お腹づくり”にこだわっており、健康的でたくさん食べられるように育てている。
また、牛を育てる上で最も大切なのは、牛の体調管理だ。特に季節の変わり目は、調子が良い牛でも体調を崩しやすいため注意が必要だ。また、子牛は特に体が弱いため、餌を食べる量や行動の変化を観察しながら、小さな変化も察知して早期治療が出来るように心掛けている。
体調管理には、センサーなどのデジタル技術も活用している。長時間横たわったままの牛がいると、スマートフォンに通知が届き異変に気づくことができる仕組みだ。長時間体勢が変わらない時は、体調が優れない可能性がある。デジタル技術の進化で、体調の変化にいち早く気づくことができ、事故を未然に防ぐことが出来るようになったそうだ。
また、母牛の出産には川井さんが自ら立ち会う。多くの場合は自然に生まれるが、子牛が大きい時は手助けをすることもある。後ろ足から生まれてきた場合は、羊水を吸い込んで窒息しないよう早く出す必要があるため、出産状況に応じて対応している。
飼育する全ての牛には、必ず10桁の“個体識別番号”がつけられている。この番号は、スーパーなどの販売店のラベルにも記載されており、牛の出生地や生産者情報、移動歴などが調べられる。いわば牛の戸籍のようなものだ。
土佐あかうし協会では、この個体識別番号を活用して、生産者とお客さまの橋渡しをする取組みを行っている。
自分が育てた牛が、どのお店へ渡って誰に食べられたのか、お客さまに喜んでもらえたか、といった情報を、生産者が知ることは難しい。そのため高知市内にある“土佐あかうし専門店 TOSA WAGYU あか”では、提供する肉に部位名だけでなく個体識別番号と生産者名を記載した札をつけている。
その札を基にシェフが生産者について説明しながら肉を提供したり、お客さまからいただいた感想を生産者へ伝えるなどの活動を行っている。さらに、口コミをいただく場合は生産者名も記載してもらうよう依頼している。
川井さんも、「お客さまから美味しいという声を聞くことが嬉しく、それがやりがいに繋がっている」と語った。
土佐町には牛の預託施設があり、妊娠中の母牛を預けることができる。預託施設は共同の放牧場になっており、母牛を5月頃から10月頃まで放牧している。放牧というストレスフリーな環境が、母牛にとって良い影響となるため、 川井畜産でも預けることがあるそうだ。
上質な土佐あかうしを飼育するためには、ストレスのかからない環境が大切となる。川井畜産の牛舎内ではラジオを流し、色々な声や音を聴かせることで、環境の変化がストレスにならないよう工夫しているそうだ。
こうした工夫の成果もあり、川井畜産で飼育されている土佐あかうしは、県内外で高く評価されている。
TRB規格制定後、最高ランクである“R5”を最初に獲得したのが、川井さんの父の高広さんが育てた土佐あかうしだ。
また、令和7年11月に嶺北地域で開催された第51回嶺北畜産能力共進会 では、“母系牛群の部”で川井さんが飼育する土佐あかうしがグランドチャンピオンに輝いた。
和牛のオリンピックともいわれる全国和牛能力共進会に、川井畜産で飼育した土佐あかうしがエントリーされたこともあるそうだ。
「牛にストレスを与えず、美味しいご飯を食べてもらい健康に育てることが、土佐あかうしの美味しさに繋がる」と川井さんは教えてくれた。
畜産業界では、高知県に限らず、全国的に高齢化と後継者不足が深刻な課題となっている。川井畜産では、若手の生産者が増えてほしいとの思いから、1ヶ月ほど農家に住み込みで学ぶ農家研修の受け入れを行っている。研修で畜産業への理解が深まることでその道に進んだり、実習後に川井畜産で働いてくれる研修生もいるそうだ。
実際に研修で伝えているのは、「やる気があればできる」という思いだ。
「牛飼いに興味はあってもどんな仕事なのか、イメージが湧かない人が多いと思います。他の仕事と同じように大変なこともありますが、この仕事の面白いところは、自分で研究しながら努力していけば、収入などの成果として反映されていくことです。そこが、とてもやりがいのある部分ですし、牛には個体差もあるので、そこに向き合うのも面白いです。」と川井さんは教えてくれた。
日々研究を重ねながら、牛一頭一頭に真剣に向き合う中で見えてくる仕事の面白さや、充実感。これこそが畜産業を営む上での大きな魅力であり、重要なポイントとなっている。
土佐あかうしの魅力を語る川井さん
土佐あかうしを飼育する上での苦労を聞くと、「一番かわいそうなのは、途中で死んだりすることです。些細なことが原因で死んでしまうこともあるので、無事に出荷できるまで細心の注意を払って大事に育てています。うちだけではなく、他の農家さんもみんな丹精込めて飼っているので、ぜひ食べてみてもらいたいです。」と川井さんは語った。
地域の農家は軒数が少ないため、繋がりを大切にして情報交換をしている。一緒に畜産業界を盛り上げようという仲間意識が強い。それはきっと、より多くの食卓に土佐あかうしを届けたい、という強い思いからきているのだろう。
土佐あかうしは、地元のスーパー以外にも、ECサイトでの販売も行われている。川井さんおすすめの食べ方は、土佐あかうしの旨味を存分に味わえるよう、シンプルに塩コショウのみで焼いて食べること。まずはご家庭で、その美味しさを実感してみてほしい。そして高知を訪れて、産地の専門店で提供されるその上質な味わいを堪能すれば、忘れられない体験となることだろう。
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