自然の恵みのめぐりあい 百姓工房みゆ
百姓工房みゆ 有田二三(ふたみ)
小京都で知られる中村、風光明媚な土佐清水、港町宿毛に囲まれている三原村。素晴らしい自然に囲まれたのどかなところだ。そこに地元では有名なカスタードプリンがある。「こんな山の中で作られるプリンって」と期待で胸をふくらまし、生産現場に訪れた。
上左写真=「百姓工房みゆ」養鶏場からの風景。有田さんのお気に入りの場所)
たまご屋さんがプリンを作る
“カスタード”とは、牛乳・卵・砂糖を混ぜ香料を加えてクリーム状にしたもの。「百姓工房みゆ」の始まりは、有精卵を販売する養鶏家。現在、プリン作りを一手に引き受けるご主人、有田二三(ふたみ)さんが22年間培ってきた養鶏技術から生み出される卵が、このプリンの礎となっている。また、有田さんはフランス料理のシェフをしていたこともあり、その経験が活かされている。
しかし、今あるプリン作りに至るまでは、「順調な道のりだけではなかった」と有田さんは語る。料理の道から、長年の夢であった有機農業の道へと軌道転換したのが22年前。生まれ故郷である宿毛市で、鶏の放し飼いとシイタケ栽培を始めたが、15年ほど前からイノシシやシカによる農作物への食害が見られるようなる。そしてとうとうイノシシに鶏が食べられる被害が発生。これには有田さんも堪りかね家もシイタケ栽培の機械も全部捨て、4年前に現在工房のある三原村に辿り着いた。
「三原村で有機農業をすることも考えたが、今まで自分がしてきたことを活かすことを考えたらプリン作りに行き着いた。」と有田さんは語ってくれた。
プリン作りのコツ
「フランス料理を作っていた時のプリンの味が忘れられない」という言葉が、有田さんのプリン作りに現れる。
百姓工房みゆで作っているのは、今、主流である「なめらか」で「やわらかい」プリンである。そのプリンの作り方は次のようなもの。“焼き”については、焼いた後にやり直しがきかないが、ある程度は材料で調整してくれるのだ。それがノンホモ牛乳(脂肪が細砕化されてない牛乳)を使うことであったり、卵黄を多めにすることであったりする。それによって多少の焼き加減の違いでも、食感がやわらかいものになるそうだ。
プリンを作り始めた当初、一番苦労したことを有田さんが語ってくれた。「私はケーキ屋さんと違って加工業者ですので、商品が店頭に並んでお客様の手元に届くまでを考えないといけない」と。輸送中にカラメルがプリンに移る“あがり”や、店頭で4日後にどうなっているか。近くの量販店に出すだけでもジワーとカラメルがあがってくる。それを改善するためにいろいろな焼き方をして今のプリンがある。自然の材料だけで作っている故の苦労である。
①自家製の有精卵を使う。卵黄の量がかなり多い。
②牛乳には低温殺菌牛乳とノンホモ牛乳の2種類を使用。それにグラニュー糖が加わる。これらを温める温度は企業秘密。
③卵と牛乳と砂糖が混ざり合う。プリンに使われる材料はこれだけ。しばらくすると、濃厚な甘い香りが工房に広がる。
④混ぜた材料をこし器に掛けて、なめらかさを出す。内容量は80gと、お手頃なサイズ。
⑤添加物は一切入っていないので賞味期限は4日というわずかな期間。これからは賞味期限を長くする商品開発をするとのこと。
⑥コンベクションオーブンでムラ無く焼き上げる。焼くというより蒸す時間がほとんど。これを冷まして出荷する。
材料を活かす
プリンへのこだわりについてと尋ねると「よく人に聞かれますが、本当のことを言うとこだわりを持っているわけではないんですよ。」と有田さんは言う。
鶏そのものにしても「この飼い方じゃないといけない」ということではない。餌を与えるにも、餌の量を計算するわけではない。その日その日、臨機応変にある物を与え、なければ食べさせない、という考え方なのだ。
また牛乳にしても、酪農家からもらったものでとても濃厚な味のプリンを作ったが、法律上の理由で直接酪農家から牛乳を購入できず、それに近いものを探していたら現在使っている低温殺菌牛乳とノンホモ牛乳にたどり着いたそうである。
有田さん曰く、「有機農業をすると自然が一番。私たち人間も、水も空気も土も全てが自然からの頂き物。自然風な鶏の飼い方をすればいいし、プリンも与えられた材料をあわせたらいい。どこの何か(材料)を探すのではなく、使っている材料は全てが“めぐりあわせ”。あとはそれを自分がどのように配合するか。」と。
自然に逆らうのではなく自然に同調する。イノシシの被害にあった時も、イノシシを殺すのでなく、来ないように防護柵をするのでもなく、新天地を求めた。そしてたどり着いた三原村。幸か不幸か、この事件がなかったら、このカスタードプリンは生まれていない。
放し飼いでのびのびと育つ鶏。養鶏場全体での飼育羽数は約300羽。主力選手は「ボバンス・ゴールドライン」。
プリンに使われる卵。割ってみると卵黄がレモンのような薄い黄色をしている。季節によって色が変わるそうだが、普段見慣れている卵との違いに驚く。
カスタードプリンのこれから
包装作業まで全て手作業。
プリン作りは有田さん一人で行うが、養鶏、製品や材料の運送は家族みんなで行っている。
カスタードプリンの販売は、高知県内の量販店での店舗販売が始まり。県外への販売はまだまだこれからで、吉祥寺高知屋で販売され始めたのは、今年の5月から。輸送中のカラメルの“あがり”への対策と、新鮮さを保つために、食べる時にカラメルをかけるプリンを開発した(このタイプの賞味期限は10日間)。しかし生産量が増えても、上限を決めてそれ以上は作らない。工業製品ではなく、自分一人で作る“手作り”を貫くそうだ。
「“自然に与えられたものを如何に自分の知恵で活かすか”、それを考えて材料をブレンドして最高のものを出す。微妙な配合比の違いで全く別のものが出来るところに、おもしろみがある。これからも、いろいろとアイデアを出して、同じプリンでありながらも、その時の材料や自分の環境の中から最高のものを作っていきたい」と熱い抱負を語ってくれた。
生産者情報

百姓工房みゆ 有田二三(ふたみ)
- 住所:
- 電話:0880-46-2425