改良進行形の結晶 池一菜果園
池一菜果園 池 洋一
1本2500円のトマトジュース!?
トマトジュースと言えば、1本(500ml入り)200円程度のものが一般的。それが2500円するトマトジュースが発売されたのが2005年の8月。高知のデパートで見た時の衝撃は忘れられません。なぜそんな高級トマトジュースを創ることになったのか、社長の池洋一さんに伺いました。
「デパートから“日本にないトマトジュースを作ってもらいたい”という話を受けたのが始まりです。その前からトマトジュースを作ろうと家で試験をしていました。一般に売られている商品ではなくて、今までにない物を作ろうとしたのが、きっかけでした。フルーツトマトだけを材料にすると栄養価が非常に高くなる。本来フルーツトマトは普通のトマトを濃縮する栽培なので、全く違う物ができるんですよ。」
発売当初の売れ行きは、「高価な物ということがあり、販売数は1日2本ぐらい売れたら上出来と見込んでいたところ、2日で80本のスタートとなりました。現在では1ヶ月に6000本くらい出荷しています。」とのこと。
なるほど、なかなかの好評のようです。
ぎゅぎゅっとフルトマのラベル
現在「ぎゅぎゅっとフルトマ」には4種類のラベルがあります。赤(糖度:8度)、黒(糖度:9度)、銀(糖度:10度)、金(糖度:11度)。発売当初は金1本で始めたそうです。ラベルが4種類あるのは、販売側であるデパートの希望でギフトの価格構成を考えて、種類を増やしたそうです。
池一菜果園のトマトジュース商品ラインアップ
左から4商品「ぎゅぎゅっとフルトマ」赤(糖度:8度)、黒(糖度:9度)、銀(糖度:10度)、金(糖度:11度)。高知県アンテナショップで取り扱いしているのはこちらの商品。トマトの赤、シックな黒、高級感のある銀と金、どのラベルも色を選ぶセンスがいい。ビンはワインの物を思わせるデザイン。ビン選び、ラベルのデザイン決定まで試行錯誤が続いたとのこと。
続いて2商品「南国高知からみなみのかほり」(糖度:7度)、(糖度6.5度、食塩0.1%※)。こちらはゴクゴクっと飲みたい時のために、サラリとした飲み味の商品。高知県内の量販店でも販売中。
新商品の開発はまだまだ続くそうです。
※食塩無添加タイプもあります。
ビンを開けると噴き出したトマトジュース
現在、好評に付き、トマトジュースの販売数は順調に伸びています。加工場を拡大し受注に見合う生産ラインの準備をしています。でも、このトマトジュースが商品化されるまで、池社長は大変苦労されたそうです。
販売開始は2005年の8月。当初は、4月の販売を目標にしていたそうですがそれに間に合わなかっとのこと。商品化までにいくつか乗り越えて来た山場を語ってくれました。
・「分離への挑戦」
ジュースの上にできる上澄みのような液体の層が「分離」です。トマトを加工する時に傷をふさごうとしてペクチンがペクチナーゼ(酵素)に変わります。分離が出ないようにするには酵素を作用させないようにしますが、その方法を見つけるのに図書館に通い、本にも書いてないので自分で考え出しました。
・「衛生管理の問題」
フルーツトマトは非常に栄養価が高く、そのままだと腐敗が起こりやすいです。数々の試験段階を踏んで、工場を準備して、いよいよ実用化する段階で(試作品の)ビンを開けると天井に届くくらい吹き出しました。まさにシャンパン状態。中の菌が死んでないんです。デパートの社長の前でも、高知県アンテナショップ商談会でも吹きました。その後、4ヶ月ほどかかって問題を解決して販売にこぎ着けました。
それまで高知県ではトマトジュースの一般的な加工技術はありましたが、あまり進んでなかったそうです。それが幸か不幸か、独自の加工技術を作ることになったとか。現在は、ビンの中が確実に滅菌されているかどうか確認する「検瓶」の手法を独自に考案。ビン自体に、気泡や亀裂が入っていないか、ビンの中の真空度合いがきちっとしているかを調べています。
試作品を作っていた頃を振り返ってこんな話を伺いました。「試作に失敗して大量のジュースを毎日畑に捨てに行きました。はじめは飲んでいたが、そのうち毎日も飲めなくなり捨てていたら、従業員が精神的に参ってしまいました。とにかく試作が大変でした。」愛情を込めて作ったトマトが捨てられるは、農家の方にはつらいですよね。
ジュースの味はトマト次第
お味の方はどうでしょうか?飲ませてもらいました~。
まずは赤ラベルから。さっぱりとした甘みと酸味があり、香りはトマトそのもの。トロリとして濃厚だと思っていたら「飲み慣れない方には濃厚に感じると思いますが、これでも当社ではさっぱりしたものになります」と説明がありました。では一気に飛んで金ラベルを頂きました。これはすごいです!これがジュースかと思うぐらい濃厚な味。トマトをまる飲みしているようです。甘味、酸味、コクといった味を口の中全体で感じられました。
ジュースの味は原料となるトマトの味で決まります。「園芸でどんなトマトを作るかでジュースが決まります。トマトしか使ってないので、味の付けようがない。」と社長は語ります。トマトジュースの礎となるのは、社長が培ってきた園芸技術。元々はキュウリ栽培から始まり、7年ほど前からフルーツトマトの栽培を始めました。トマトの栽培を始めたのも、高知県内の量販店から依頼があったことがきっかけ。「お客様がお店に来たらいつでもおいしいトマトがあるようにしたい。」という希望があったから。現在、年中トマトを生産できるよう、ハウスではトマトの栽培が行われています。池一菜果園には約30人の従業員がいます。トマトを栽培する園芸部門とトマトジュースを製造する加工部門に分かれて、トマトとトマトジュースをみなさんのお手元に届けています。
季節によってトマトの味は変わるもの。トマトの糖度は日数をかけて育てるほど高くなります。気温が高いと生長が早いので、味と色を両立させるのは難しいようです。年間通してトマトの味を管理するには、技術が必要。「コンピュータを入れて、ハウスの条件を自動制御してますが、最終的には観察です。」観察は一日4回。真夜中にも観察をしています。「休まる時がないですね」と言うと、「そうですね。ただ見に行かないといられないですね。子供の守のようなもの。言葉をしゃべらないので、いつも受け身になって考える。」と語ってくれました。
ものづくりへの姿勢
最後に、トマトやトマトジュースなどをどんな考えを基に作っているのか語ってもらいました。
「もともとない物を作るのが好き。10月にフルーツトマトを作るのもそうでした。自分の経験から予測して、できなかったものをできるようにするのが好き。絶対あきらめない。もしミスがあったらそれをつぶして、またつぶして改良を進めていく。それが当社の独自の栽培技術です。例えば今、量販店に行ったら何でもあるが欲しい物がない。欲しい物はなんだろうかと、売る側も探しています。売る側への話題提供も生産者側の努力です。相手が求める物を作るのがスタンス。それは農業をしてきて、植物と対話することが基になっています。」
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