地元素材のおいしさを味わって
和菓子処 おおいし
四万十市中村は、約500年前、土佐一条氏が京都を模したまちづくりを始めたことから「土佐の小京都」と呼ばれています。
その中村にある「和菓子処 おおいし」の三代目大石尚史(ひさし)さんは、地元の一次産品を活かした新しいお菓子づくりに取り組み、このたび羊羹と最中が完成しました。
こだわりの素材と新しいお菓子について、大石さんにお話を伺いました。
こんなお菓子を待ちよった!
後口のいい上品な甘さが、気に入っちゅう。
玄最中は「和菓子処おおいし」でしか買えんき、四万十川に遊びにきたら寄ってみて。(ブラ坊)
こだわりの素材との出会い
こだわりの食材、黒砂糖と天日塩「土佐の塩丸」
大石さんが京都の和菓子屋で8年間修行をした後、中村にUターンしたのは2006年。
地元の一次産品を活かした新しいお菓子を作ろうと考え食材を捜す中で、有限会社ソルティーブの天日塩「土佐の塩丸」と、大方精糖生産組合の黒砂糖に出会いました。いずれも四万十市のお隣、幡多郡黒潮町を代表する品です。
「土佐の塩丸」は、海水を風と太陽の力だけで結晶にした完全天日の塩。そのミネラルバランスから、甘・鹹・酸・辛・苦と5つの味が感じられます。大石さんは、この天日塩に「これだ!」と運命的な出会いを感じたそうです。
一方の黒砂糖は、大方の砂地で有機肥料を使い無農薬で育てたサトウキビを、煮詰めから仕上げの薪釜での炊き上げまでに5時間かけてできたもの。黄金色がかったきれいな色が印象的。どちらも生産者のこだわりの逸品です。
大石さんはこの二者と共に、2007年7月「黒潮あまから協議会」を設立。「県産食材利用新商品開発連携推進事業」に採択され、新しいお菓子づくりがスタートしました。
商品はおみやげとしても利用できる日持ちのするものということから、羊羹に決定。既存の商品を取り寄せての食べ比べや、試作品の試食など約10回の打ち合わせを重ねました。試食会で好評だった黒砂糖入りのあんを使った最中も商品化することに。
「購入しやすい商品」という視点でのアドバイスも受け、お菓子のサイズや硬さが決まったのは最終段階だったとのこと。3つの新商品が誕生し、2008年1月6日から販売が開始されました。
食べきりサイズ「天日塩の白羊羹」と「薪釜糖の黒羊羹」
あんこがたっぷり「玄最中」
「天日塩の白羊羹」と「薪釜糖(まきがまとう)の黒羊羹」は、天日塩の「白」と黒砂糖の「黒」がお菓子にもパッケージにも活かされ、コントラストも鮮やか。
一方の「玄最中(くろもなか)」は、職人の手で作ったものをイメージし、玄人の「玄」と黒砂糖の「黒」をかけたユニークなネーミングとなっています。
「薪釜糖の黒羊羹」の作り方を見てみましょう。
【1】 水と寒天を混ぜたものに、黒砂糖を加える。
【2】 食感を出すために粒あんを投入。
【3】 さらに、こしあんも。
【4】 味を調整し、型に流し込んで完成。
1回に作ることができるのは、各種250個分まで。このため、白と黒を合わせて1日に500個を製造しています。「白羊羹」は、天日塩の力で甘さがスッキリとした上品な味。また「黒羊羹」は黒砂糖の深みのある優しい甘さが、ジワッと口のなかに広がります。粒あんの歯応えがアクセント!
一方「玄最中」は、黒砂糖入りのあんの味をしっかり味わってもらえるよう、あんこをたっぷり入れたのだそう。「あんこ好きのお客さまに喜んでもらっていますよ」と大石さん。
商品化で最も大変だったことは「どんなお菓子を作れば、素材の味を一番感じてもらえるか」だったそう。「完成するまでは全部大変でしたね。父からもいろいろアドバイスを受けました」との言葉に、これまでの並々ならぬ道のりが表れているように思いました。
また、大石さんは塩が入った羊羹を作るのは初めてだったので、配合は試行錯誤の繰り返しだったそうです。商品完成後、お客さまに試食してもらい、感想を聞きながら販売をするテストマーケティングを高知県内5カ所で実施。塩の加減について協議会で新しい意見も出ているとのこと。よりおいしい商品にするための検討が続けられています。
「土佐の小京都」での和菓子づくり
「和菓子処 おおいし」の店舗。
今でも京都のまち並みを感じる中村。その中にあって、お茶菓子に、また贈答用に常連のお客さまがやってくる「おおいし」さん。そのルーツは?
祖父は、中村で飴などの簡単なお菓子を作っているお店に勤めていました。その後独立して『和菓子処 おおいし』を始めたのが約70年前と聞いています。二代目の父の代では、当初駄菓子を販売していましたが、勉強会に参加して上生菓子を作るようになりました。現在は両親と私たち夫婦とで店を切り盛りしています」と大石さん。
いちご大福が長い間の看板商品となっていて、「地元では『いちご大福と言えばおおいし』という感じになっている」そう。
中村でもお茶の流派が幾つもあり、お茶会があるとお茶菓子の注文が入ります。「先生のイメージで依頼があるので、それに沿ったオリジナルのものを、その都度考えて作っています」
オリジナルの製作は難しいのでは? 「私が修行した京都の和菓子店は、最中やぼたもちが中心のお店でした。一方『おおいし』は上生菓子が中心なので、その知識の必要性を感じ『大阪二六(にろく)会』(毎月26日に開催)に3年ほど在籍して勉強しました」。そのときに作ったお菓子のパターンを応用して、オリジナルの上生菓子を考案しているとのことです。
大石さんがUターンして、お店の商品は黒糖まんじゅうなどのシンプルなものの割合が増えました。上生菓子との割合はちょうど半々くらい。
また、今回天日塩と黒砂糖に出会ったことで、既存の商品に使う塩や黒砂糖もすべて黒潮町のものに変えました。「ソルティーブさんの塩は、エグ味をまったく感じません。白羊羹のほかに豆大福や粒あんの隠し味に使っています。いいものは少量でお菓子の味に反映してきますね。また、黒砂糖は『黒いもの』というイメージがあったのですが、大方精糖生産組合さんの黒砂糖は黄金色をしていて、アクが少ないので和菓子づくりにぴったりですね」。上生菓子には一部着色料を使用していますが、それ以外の商品は全て無添加・無着色になり、おいしくて安心できる商品づくりに励んでいます。
◆「和菓子処 おおいし」の商品の一部
1.看板商品、いちご大福。中にはLサイズのいちごがぎっしり!
2.老玉(うばたま)。黒砂糖を使ったきれいなお菓子。
3.豆大福。黒豆がおいしい。
4.四万十の鮎。四万十川が近いです。
5.ロールカステラ。いちごジャム入り。
6.二代目、忠生さん直筆のお品書き。
7.挟み菊。細工がとてもきれい。
素材のおいしさとセットでPR!
大石さんは、今回作った新しい商品を多くの人に食べてもらいたいと考えています。さらに継続して購入してもらい、地域の人に長い間愛される商品に成長することを願っています。「商品が完成したこれからが正念場だと考えています」という言葉から、商品に対する熱い思いが伝わってきます。
生産量が限られているため、今のところ新商品は「おおいし」で販売しているほか、四万十市の「彩市場」と黒潮町の道の駅「ビオスおおがた」で羊羹のみを取り扱っています。
また、天日塩、黒砂糖、羊羹のセット商品を考案中。商品のPRを通して、素材のPRもしたいとのこと。「素材の良さをぜひ知ってもらいたい」と熱く語る大石さん。天日塩や黒砂糖が家庭料理の味も変えるかも・・・そんな可能性が広がりますね。
生産者情報

和菓子処 おおいし
- 住所:〒787-0025 高知県四万十市中村一条通2-26
- 電話:0880-35-2560