キッカケは小さな良心市から・・・ /有限会社スタジオオカムラ
はるのTERRACE
良心市から始まった地元生産者との交流
ともに課題に向き合うため、シニア野菜ソムリエへ
町内を清流・仁淀川が流れ、初夏になれば全長5kmにわたってあじさいの花が咲き誇る「あじさい街道」で人気を集める高知市春野。小林正美さんが代表取締役社長を務める「有限会社スタジオオカムラ」は、ここ春野町で昭和28年に写真館として創業しました。
平成12年、事務所の移転に伴って写真館とベーカリーカフェが併設する複合型店舗「はるのTERRACE」をオープン。その駐車場の一画から、小林さんと地元農家との交流がスタートしたのです。
「駐車場の一画に良心市(無人の野菜販売所)を作ったのが、生産者さんとの交流のきっかけでした。生産者さんと話をしていくうちに、『今、高知の農業がどういう課題に直面しているのか?』『何が必要で、これからどうしていけば良いのか?』ということと向き合うようになってきたんです」(小林さん)
小林さんは「地元のために何かをしたい」という気持ちに駆られましたが「私たちはずっと仕入れる立場だったから、野菜のことを知らない・土のことを知らない・作りのことを知らない。何かをするには知識が乏しい」と悩みます。
そこで小林さんは、野菜作りの知識はもちろん、消費者目線でも有益な知識が得られる「野菜ソムリエ」に注目。フォトグラファーとしての仕事をする傍ら、よりレベルの高い活動をするため野菜ソムリエのなかで最上級にあたる「シニア野菜ソムリエ」を目指し、見事その資格を取得したのです。
生産者を支えるためには、やはり「加工品」が必要
他との差別化にこだわり、独自の存在感をアピール
地元生産者と交流を続けるなかで、一人のトマト農家との出会いが小林さんに新たな展望を開かせました。
「農業の現状や将来を話していくうちに、やはり加工品を作らないと厳しいということが分かったんです。
ちょうど当社の飲食部門で実験的に加工品としてトマトソース作りをスタートさせており、イタリアのトマト・サンマルツァーノの輸入缶を使っていたんですが、『それなら春野産のサンマルツァーノにしてみよう』と生産者さんに栽培を依頼したんです」(小林さん)
「サンマルツァーノを国内で量産しようとしたのは珍しかったのでは?」と当時を振り返る小林さん。大量に実をつける品種ではありますが、管理に適さないじゃじゃ馬なトマト。
国内での本格的な栽培の前例もなく生産者さんは苦戦を強いられましたが、なんとかサンマルツァーノの栽培に成功。
一方、小林さんも設備投資や販路など多くの問題に直面しましたが、さまざまな公的制度を活用することでトマトソースの製品化にこぎつけることができました。
「栽培されたサンマルツァーノを高知県工業技術センターでデータ測定すると、アミノ酸・グルタミン酸という旨味成分が高いことが分かりました。
また、自社工場に低温で有用成分抽出や濃縮ができる真空マイクロ濃縮釜装置を導入することで、サンマルツァーノのおいしさと栄養成分を損なうことなく加工できるようになりました。
大きな課題に挑んだぶん、競争が激しいトマトソースの市場において差別化を図ることができたのです」(小林さん)
他にも、地元産ハーブを使ったソースや郷土野菜を使ったピクルスなど、さまざまな加工品が生まれました。
中でも摘果されて使い道がなかった熟す前の青いミカンをpH調整剤の代わりに活用した「ジンジャーエール」は製法にこだわることで他とは違う舌触りや風味を持ったジンジャーエールに仕上がり、一躍大人気に!
黄金生姜、梅、小夏、ぶしゅかんなど高知らしいフレーバーも好評で、高知県地場産業賞も受賞しました。
人のチカラ・食のチカラは、絆の源
人と風景が見えてくる商品で生産者と生活者をつなげたい
同社が作る「はるのTERRACE」の加工品のラベルには、ある共通したモチーフが隠れています。それは春野町の町花である「あじさい」です。
「春野町の農産物をクローズアップしたいので、ラベルにはあじさいの四片を必ず取り入れています。ここ春野町は日本一の清流・仁淀川があってピュアな雰囲気。もちろん人もピュア。
だからこそ、春野町の人も景色も見えてくるような商品を作っていきたいんです」(小林さん)
小林さんの志は高く、加工品製造以外にも高知駅前に高知県の特産品であるショウガの専門料理店をオープン。
高知市を中心にベーカリーやカフェなど飲食店を複数オープンさせ、そこでも積極的に地元食材を活用。
また、春野町にある複合型店舗は地元農産物を使った農家レストランへリニューアルが予定されています。
さらに、高知県内のトマト農家が一堂に会した「トマトサミット」などのイベントにも尽力。若手も巻き込み、農業を楽しく盛り上げています。
「野菜ソムリエは生産者と生活者をつなげるのが役目。がんばっている生産者さんが作った農作物を、それを欲している方にきちんと届けたい。
それが加工品であったり、青果であったり、飲食店であったり…ツールはさまざまです」(小林さん)
「今も生産者さんからたくさん『宿題』をいただいていますよ」と笑う小林さん。
「人のチカラ・食のチカラは、絆の源だと信じています」と揺るぎない思いを胸に、生産者とともに描いた夢へと動きはじめました。
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