鯨(くじら)。土佐伝統の保鯨文化を今に伝える
土佐の「鯨」について
鰹と並んで鯨は古くから土佐の人々の暮らしに身近な存在でした。土佐の民謡「よさこい節」に、こんな一節があります。「おらんくの池(太平洋)にゃ、潮吹く魚が泳ぎよる」太平洋に面した高知県では、古くからこんな歌が歌われるほど親しみのある存在です。土佐湾は、日本有数の鯨の生息域で、かつては捕鯨文化も栄えていました。いまでは、大海原で鯨の姿を見るホエールウォッチングが土佐湾沿いの各市町村で盛んに行われており、観光客に人気です。近年、捕獲量が制限され、貴重な食材となった鯨ですが、高知では、南氷洋調査捕鯨のミンク鯨などを使ったさまざまな料理がいまも食べられています。
「鯨」はここがおいしい
土佐の味と言えば、「鰹のたたき」をイメージされる方が多いと思いますが、「鯨の刺身」も美味!肉は空気に触れると鮮やかな色に変化するので、半解凍ぐらいが食べ頃です。お皿に盛り、シャリシャリの食感を味わいましょう。他にも、「鯨の竜田揚げ」は、小さい頃の給食を思い出す懐かしい味として好まれる方も多いのでは。肉厚の鯨肉とシャキシャキの水菜のハーモニーが楽しめる「ハリハリ鍋」も寒い時期にはうれしい、高知の冬の味覚です。赤身だけでなく、希少価値の高いウネス(腹の部分)やさえずり(舌)など、鯨は余すところなく楽しむことができます。
鯨ハリハリ鍋
竜田揚げ
さえずり
ウネス
土佐の鯨文化
高知県東部の街、室戸市では、藩政時代、捕鯨が盛んに行われていました。当時の捕鯨方法は“古式捕鯨”と呼ばれています。 “古式捕鯨”とは、20隻が1チームとなり、鯨を網で追い込んだ後、銛を使って仕留める形式のものです。一隻ずつに役割があり、網を張って鯨を絡ませる「網舟(あみぶね)」や、鯨を網に追い込み、銛を投げて仕留める「勢子舟(せこぶね)」、捕らえた鯨を運搬する「持双舟(もっそうぶね)」などの種類があったと言われています。現在では、その中の「勢子舟」を再現し、チームごとに競う「鯨舟レース」が、毎年7月に室戸市で開催されています。
鯨は豊かな生態系の証明
高知県西部の黒潮町の沖合でも、ニタリ鯨が頻繁に見られます。鯨は海の生態系の頂点に位置し、森・川・海の全てが豊かな自然の下でのみ生きられます。栄養分豊かな土をつくる森。その森に降った雨水はスポンジ状の土に蓄えられ栄養分豊かな水を川に送ります。川は森から送り出された水で植物プランクトンを育てます。植物プランクトンは動物プランクトンのエサとなり、動物プランクトンは小魚のエサとなります。そして、小魚やプランクトンは鯨のエサとなるのです。鯨の存在は、地域が本来の自然の姿を保っていることの証拠だと言えるでしょう。